2010年の改正臓器移植法により提供者数は大幅増

当初は条件が厳しすぎた

脳死と判定された方から臓器の提供を受け、病気で困っている患者さんに移植を行う「脳死移植」。1997年、この脳死移植を認める「臓器移植法」が施行されましたが、臓器提供者(ドナー)は年に数人程度でした。

年間7000〜8000人のドナーがいるアメリカと比べるとその差は歴然としていますが、当初、日本でのドナーが極端に少なかった理由は、同法がドナーの条件として非常に厳しい条件を規定していたためです。

具体的には、@臓器を提供する本人が生前にその意思を書面に残していること、A家族がその意思を否定しないこと、B15歳未満の子供は意思に関係なく、臓器提供が認められない、などとなっていました。

臓器の提供が必要な患者さんに占める子供の割合は低くありません。心臓移植では、患者さんの体の大きさに見合ったサイズの心臓が必要となりますが、乳幼児や子供の場合は、同世代のドナーそのものが認められていないため、国内では手術が受けられない状態が続いていました。

そのため猶予のない心臓病の患者さんはアメリカなど海外へ渡り、現地の医療機関での移植に賭けざるを得ませんでした。海外での手術は高額な費用がかかるため、該当での募金活動が積極的に行われその様子は度々テレビなどで放送されましたので、ご記憶の方も多いと思います。

成人も含めると年間10人ほどの患者さんが、海外の医療機関で心臓移植を受けてきました。しかし、日本人が自国ではなく海外で移植を受けることは、海外で移植を待っているその国の患者さんにとっては決して歓迎できることではありません。同様の問題は国際移植学会でも度々採りあげられており、その結果として2、自国での臓器移植を推進することを求めた宣言が採択され、日本も対策を迫られることになりました。

こうした事態を受けて、様々な議論を重ねた結果、ようやく2010年に現在の改正臓器移植法が施行されたのです。主な改正点としては、@臓器提供を行う本人の意思が不明でも、家族が書面で承諾すれば提供が可能となった、A15歳未満でも、脳死判定がされれば、臓器提供が可能になった、B15歳以上のドナー希望者が生前に意思表示を書面に残していれば、親族への優先提供が認められるようになった、などが挙げられます。

同法が改正される前は13年間で脳死による臓器提供者は86例でしたが、改正後は約1年で60例ちかくも提供がありました。その多くは本人は書面で意思を示す機会がなかったものの、家族が承諾したものです。つまり、法改正が行われる前なら患者さんは提供を受けることができないケースがほとんどなのです。

救急医療現場における医師不足や移植コーディネーターの不足などが課題

ドナー家族の心のケアも求められます

しかしながら、法改正によって全ての問題が解決されたわけではありません。臓器提供が今後増えることは、救急医療現場、ドナー家族への説明を行う移植コーディネーターへの負担が増えることを意味しますが、いずれも不足しています。特に移植コーディネーターは全国で70人足らずとなっています。

また、今改正では本人の意思が不明な場合でも、家族の了承があれば移植が認められることになりましたが、臓器移植を決断した家族が、後に本当にそれでよかったのかと自責の念に駆られることも想定されます。しかし、ドナーの家族をケアする体制は未整備のままです。

改正法を可決するにあたって、特に大きな議論となったのは15歳未満の子供の臓器提供が可能とする点でした。成人の脳と異なり、回復力の強い小児の脳の脳死判定は難しいとされています。生後12週〜6歳未満の場合は、2回義務付けられている脳死判定の間隔を24時間(成人は6時間)と余裕を持たせて対応していますが、その妥当性については専門家から異論も噴出しているのです。