診療報酬のマイナス改定の影響で病院の経営は厳しくなっています

勤務形態の柔軟化も期待されます

患者さんの「たらい回し」でクローズアップされた小児科や産科など特定の診療科における医師不足と同様に深刻なのが、看護師の不足です。

過剰時代の到来が近いと予測される薬剤師、既に国家試験の合格者数を減らしている歯科医師とは逆の事態が全国の医療機関で起きており、厚生労働省の調査によると、2012年は約51,000人、2013年は約42,000人、2014年は約30,000人の看護師が不足すると予測されています。

看護師の養成機関を卒業して入職する新卒者の数が決して少ないわけではありません。問題は、勤務時間が長い、夜勤の負担が大きい、超過勤務が多いなどの職場環境による理由、結婚や出産・育児、自分や親族の健康問題など自身の状況に関する理由で現場を離れる看護師が後を絶たないということにあります。

実際、看護師の国家資格を持ちながら、上記の理由等で退職し、そのまま看護師として働いていない人は全国で50万人以上いると言われています。男性の看護師が以前に比べて増えたといっても、依然として95%以上は女性が占めているため、近所に両親が住んでいる人は別として、家庭と仕事の両立が難しくなるのは無理もありません。

看護師が不足すると、辞めた人員の補充も難しくなるため、医療機関に残ったほかの看護師の負担が自ずと大きくなり、さらなる離職を呼ぶという悪循環に陥ります。そのせいなのか、看護師の過労死基準と言われる月60時間以上の超過勤務を行っている人は4%もいるのです。

不幸にして20代で過労死した看護師もいますし、常に緊張を強いられる職場環境が原因でうつ病になったり、妊娠中にも関わらず休暇もままならないため、流産になった人もいるなど、人手不足が著しい中小病院の実態は一般の方が想像する以上となっています。

看護師不足に陥ったもうひとつの原因が、2006年の診療報酬改定で導入された「7対1の看護基準」です。これは入院する患者さん7人に対して看護師を1人配置する体制を採る医療機関は、これまでよりも入院基本料が大幅に増える(収入が増える)という改定です。

一つ下の配置基準である「10対1看護基準」と比べると、病床数が100違うだけで、病院の収入は約1億円違うというインパクトのある改定ということもあり、経営状態を安定させたい病院はこぞって看護師争奪に走りました。

こうなると有利なのは、看護師に優しい勤務形態や福利厚生、最新の医療機器などを揃えている大病院です。結果、相対的に経営基盤が弱い地方の中小病院では看護師不足が深刻となったのです。

問題を解決する一環として、潜在看護師の復職を支援するため、医療機関や自治体が中心となって看護スキルの実践を取り入れた復職支援の講習会や研修会を開催したり、2010年4月からは看護職員の早期離職を防止するための臨床研修制度も導入されるなど、官民挙げての取り組みが行われています。

しかし、日本看護協会は、より抜本的な対策を行わない限り、看護師の不足が解消することはないとして、厚生労働省に労働環境の改善を求める要望書を提出しました。

そのなかでは、夜勤・交代制勤務に関する実態を調査したうえで、具体的な勤務指針と改善目標を明確にすること、そして長時間連続勤務を是正するための規制を施設基準に記すことなどが求められます。