多剤耐性アシネトバクター感染症の治療薬は国内で未承認

医療従事者の手洗いは必須

抗生物質の多くに耐性を持った(=薬が効かない)多剤耐性菌が日本を含む世界中で増加しています。健康な人には無害ですが、免疫力が低下した重症患者や高齢者が感染すると、尿路感染症や肺炎、敗血症などで命に関わることもあるため危険です。

2009年、帝京大学医学部附属病院の入院患者46人が多剤耐性菌のアシネトバクターに集団感染し、うち27人が死亡(9人は感染との因果関係が否定できないと発表)したという報道がありました。

医療器具や水回りを介して感染する多剤耐性アシネトバクターによる大規模院内感染は、同年1月の福岡大学病院で23人が感染したケースに次いで、国内2例目でした。

厚生労働省は、福岡大の感染事例以降、多剤耐性アシネトバクターによる院内感染が疑われるケースは、保健所に報告するように通達を出しました。しかし、帝京大病院は感染の事実を把握しながら、半年近くも保健所への連絡を怠ったため、その間に他の病院へ感染が拡大した恐れもあったとして、病院の対応に疑問の声が上がりました。

この細菌事態は珍しいものではありませんが、多剤耐性のアシネトバクターは、2000年ごろから欧米で、人工呼吸器を使用する患者さんに肺炎を起こすとして警戒されるようになりました。現在は世界中に広がりを見せており、福岡大や帝京大の感染事例は国内に定着したことを示唆しています。

福岡大と帝京大以降も、新たな多剤耐性菌の検出が相次いで報告されています。獨協医科大学病院は、NDMIという抗生物質分解酵素を持った多剤耐性大腸菌をインドから帰国した患者さんから検出したこと発表しました。また、九州大学病院はニューヨークから転院した日本人女性から、KPCという抗生物質分解酵素を持った肺炎棹菌を検出したと発表しました。どちらの多剤耐性菌も国内では初の検出です。

耐性菌には、抗生物質との結合から逃れるタイプや抗生物質を細胞内から排出するタイプなどがありますが、上記のNDMIやKPCのような抗生物質分解酵素の遺伝子は、異なる種類の最近にも乗り移るため、医療現場では非常に警戒されているのです。

多剤耐性菌による大規模院内感染の問題に対して、日本感染症学会などの関連4学会は提言を行い、そのなかで耐性菌の検査設備の充実や感染防護具の使用、感染管理看護師などの専門家の育成・配置、診療報酬面での評価、など国の財政的な支援を求めています。

また、欧米で使用されている多剤耐性アシネトバクター感染症の治療薬が、国内では未承認となっていることから、必要な薬の早期承認や、治療薬開発を企業に促す仕組みの必要性も訴えています。